ゆとりさとるの日々

人として自然な生き方を目指す

夏目漱石の自己本位っていう考え方  

コスモス



最近ネットにしろテレビにしろ著書にしろ、「やりたいことをやる」とか「会社員人生の終わり」みたいな話をよく目にする気がする。僕が好んでそういう話題のものばっかり選んで見てるってだけなのかもしれないけど。とにかく、これまでのやり方ではない何かを求めてる人がすごく増えてきてるのかなぁっていう感覚はある。
それは、新しい問題だよね。自分の人生と真正面から向き合うっていう、今までにはあんまり必要とされてなかった問題だと思う。



人類の歴史はその99%が狩猟採集の時代らしいけど、そこでは食料を安定して確保するためにどうするかを考えるのが常に人生の問題であったわけだよね。でもじゃあそれを克服して食料がある程度安定したらみんな満足、心身ともに健康ではっぴー!ってなるかというとそうではなくて、欲望はどんどん別の何かに変換されていくっていう、人間はとんでもなく難儀な生き物だっていうのが分かっただけだった。

それは自分との戦いだよね。イチローが野球と出会って野球のために人生を費やしたような感覚を、誰しもが持たざるを得なくなる時代。一見するとすごく幸せなことかもしれないけど、逆に言うとそれがなきゃまともに日々を送れないんだから、ある意味脅威なんだと思う。例えば定年を迎えたサラリーマンが、それまで人生の大半を占めていた仕事が無くなってしまって無気力になるっていう話だったり、子育てを終えた主婦が空の巣症候群といわれる「心にポッカリ穴が開いた感覚」に陥ってしまったりっていうのと同じ問題なのかもしれない。

そのサラリーマンにしろ主婦にしろ、問題の根幹は「何かに依存していた」っていうことであって、これはなかなか自覚できないから手強い問題だと思う。だって仕事にしろ子育てにしろ、現実問題として必要なわけだから、やってる本人は胸を張って「自分は立派に生きてる」って言い張れるわけだよね。でもじゃあ「そんなことする必要がない」っていう状況になった時に一体どれだけの人が自分を見失わずに生きられるんだろうかと。

これに関するすごくいい例があって、それが夏目漱石の話。
漱石は若いころから「自分は何をしたいのかわからない」っていう虚しさを持っていて、大学で英文学を専攻しても、成り行きで教師になっても、そこに何も手応えが感じられない。33歳の時に文部省から英国への留学を命じられるんだけど、ロンドンに行ってもその虚しさはどんどん増していく。で、結局彼は今で言うところの「うつ」状態に陥ってしまった。でもそこで漱石が気付いたのが、自分はこれまで「他人本位」だったんじゃないかっていうこと。それがこの空虚さの原因なんじゃないかっていうこと。

今まではまったく他人本位で、根のない萍(うきぐさ)のように、そこいらをでたらめにただよっていたから、駄目であったということにようやく気がついたのです。私のここに他人本位というのは、自分の酒を人に飲んでもらって、後からその品評を聴いて、それを理が非でもそうだとしてしまういわゆる人真似をさすのです。(~中略~)ましてやそのころは西洋人のいうことだといえば何でもかでも盲従して威張ったものです。だからむやみに片仮名を並べて人に吹聴して得意がった男が比々(どれもこれも)皆是なりといいたいくらいごろごろしていました。(~中略~) つまり鵜呑みといってもよし、また機械的の知識といってもよし、とうていわが所有とも血とも肉ともいわれない、よそよそしいものをわがもの顔にしゃべって歩くのです。しかるに時代が時代だから、またみんながそれを賞めるのです。(夏目漱石『私の個人主義』中公クラシックス版より)

こうして「自己本位」っていうことの大切さに気付いた漱石は主体的に自分の人生を送れるようになって、それが小説家としての彼の人生の出発点になった。そんな漱石からの若者に向けてのメッセージが以下。

ああここにおれの進むべき道があった! ようやく掘り当てた! こういう感投詞を心の底から叫び出される時、あなたがたははじめて心を安んずることができるのでしょう。(~中略~)もし途中で霧か靄(もや)のために懊悩していられるかたがあるならば、どんな犠牲を払っても、ああここだという掘り当てる所まで行ったらよかろうと思うのです。(~中略~)だからもし私のような病気に罹った人が、もしこの中にあるならば、どうぞ勇猛にお進みにならんことを希望してやまないのです。もしそこまで行ければ、ここにおれの尻を落ちつける場所があったのだという事実をご発見になって、生涯の安心と自信を握ることができるようになると思うから申し上げるのです。(同前)

なんか、すごく心に響く。自分がこの世に生きてる理由を手にした時の彼の感覚。僕はまさにこの感覚が欲しいと思っているし、そう思っているのは僕だけじゃなくて、これからたくさんの人がこの問題を乗り越えていかなきゃいけないんだと思う。

「自分探し」っていうことを言うとなんだか馬鹿にされる風潮があるし、「現実を見ろよ」とか、「本当の自分なんてない」みたいなことを僕も散々聞かされたけれど、それは荒れ狂う現実に翻弄されている人たちの事情みたいなものであって、僕はやっぱり「自分」っていうものがあると思うし、自分を理解していない人は本当の意味で楽しく生きていけないと思う。もう会社とか現実みたいなものが役割やら仕事やらを与えてくれる時代は終わりつつあって、本当の意味で「自分の心から求める何か」に気付かなきゃ正気で生きていけない時代になってきてるんじゃないかなぁ。あー、いや、昔からその問題は常にあったのだけど、今はそれが一般的な国民レベルで求められる事になってきてるっていうことかも。

周りに何ら影響されることなく、どんな時代であっても、どんな環境であっても「やりたい」って言える何か。自己の確立って言い換えられるのかなぁ。他者に依存するのではなくて、自分に依って立ってる感覚。この感覚がない人にとっては、「あなたの好きなことだけやっていい」っていう環境は、むしろ地獄なのかもしれない。言われたからやってるとか、そうなってるからやらなきゃいけないみたいなことで自分を埋め尽くしてる人には、過酷だよね。

その理屈で言うと、極端な話「生活のために働いてる」っていうのはなんだか言い訳な感じがしてしまう。いや十分立派なのかもしれないけど、生活っていう事情に寄りかかってるというか、生活が保障されてるなら働かないっていうことになるわけで、それって目先の利益に走っているだけで本当の意味で自分の人生と向き合ってない感じがしてしまう。まぁ実際は生活が保障されることなんて今のところないわけだから、働く理由として立派であることには違いないのだけど、ゆくゆくはそういう事情を乗り越えて、自分が心から望む仕事をやらなきゃいけないんじゃないかなぁって思う。

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category: 人間

コメント

漱石もそんなこと言ってたんですね。

自分で決めて自分でやるってのは創造力が必要だから大変ですよね。
私も自分にそんな創造力あるんだろうかって思って不安になったりします。
自分で色々考えずに済むのが楽だから、他人を真似る方向に進みがちなのかもしれませんね。

URL | taku #z9jllgzo
2013/02/20 20:36 | edit

それは

アダルトチャイルドが共依存から自己志向になる。

自分を知ることですね

URL | たい #-
2013/02/23 08:02 | edit

Re: タイトルなし

>>takuさん

創造力…というと何かの能力のような感覚ですけど、同じ仕事でも自分なりに積み上げていくっていうくらいのものかもしれません。
他人を真似ていても、いつかは誰かに取って代わられる危険性がありますから、思い切って自分らしさを出していく必要がある…っていうことなのかなぁって思います。

URL | ゆとりさとる #-
2013/02/25 12:14 | edit

Re: それは

>>たいさん

自分を知る・認めてあげるっていうのは、簡単なようですごく難しいです。

URL | ゆとりさとる #-
2013/02/25 12:17 | edit

ブログ見て面白そうな本だったので買って読みました。自己本位というのは難しいですね。

僕の中では解決策は、「自分が好きな分野で活躍してる人で、憧れとなる人や目標となる人物を見つける」だと思いましたが、それでも目標の人物に依りすぎたら他人本位になってしまいますし、他人の成功モデルに沿ってるだけになってしまいますね…。

漱石の執筆活動をはじめ、芸術ははじめから社会貢献を目的としてない虚業なので他人に依らないスタイルを確立しやすいのかもしれませんね。むしろそうしないと活躍できませんし…

乱文ですみません。

URL | o-mi #xRS1q4qQ
2013/02/25 23:43 | edit

Re: タイトルなし

>>o-miさん

僕は誰しも「その人にしか生み出せない何か」があると思っているんですけど、漱石はそれを見つけて実現していく必要性を説いてたんじゃないかなぁって感じました。
芸術でもスポーツでもビジネスでもなんでもいいんですけど、誰にも代えられないその人だけの何か。
そういうものを見つけて追求していく喜びって、きっと生きてて一番幸せなことなんじゃないかなぁって思います。

URL | ゆとりさとる #-
2013/02/27 14:04 | edit

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